開業医はみんなダメなのか

カテゴリ全体を叩く人、叩く理由

カテゴリ全体をマウントして叩く人が苦手です。

昔よく言われたあれです。「最近の若い奴ときたら」っていうやつと一緒です。若い奴だって色々いるのに、「若い奴」というカテゴリ全体をダメなものとして扱ってしまう。

ネット界隈では結構このカテゴリ全体をまとめて叩く風潮があるので、ちょっと嫌だなと思うこともあります。

自分の周りを見るだけでも、

・生活保護受給者は不当に補助を受けている。

・最近の研修医は権利意識が高い。

・私立大学医学部はバカ。

・開業医には抗生剤を使わせるな。

などなど。あとは主婦はとか、男はとか、女はとか、外国人はとか。挙げればきりがありません。

カテゴリ全体を叩くとき、叩くなりの理由やきっかけがあったんだと思います。

例えば上の「開業医に抗生剤を使わせるな」というのを例にとってみます。

その人にそう言わしめたのは、おそらく不勉強な開業医が風邪に抗生剤を出したりしたのを見かけたのでしょう。
風邪に対して抗生剤を投与すべきではないことは最近では常識であり、むしろ使用することによる菌の耐性化が懸念されています。

子どもの風邪に薬は効かない!?病院での診察の意味は?【パパ小児科医コラムvol.3】

正直、開業医で風邪に抗生剤を投与する医師は多いと思います。
おそらく勤務医の先生達より多いでしょう。
その理由はいくつかあります。
・開業医が勤務医に比べ高齢であり、高齢の医師達の時代には風邪に抗生剤を出すことが一般的だった。
・現在の耐性菌の増加を防ごうとするアクションは1990年ごろから。その経緯を知らない。
・抗生剤を処方してほしいという患者さんの希望。
・医師の不勉強。
などです。

恥ずかしながら不勉強で患者さんに嫌われたくない開業医は昔ながらの治療として抗生剤を出してしまっているのです。
しかしながらこれは全員がそうというわけではありません。
当然日々勉強し適正な医療を心がけている開業医の先生もたくさんいらっしゃいます。
そう言った中で、「開業医に抗生剤を使わせるな」という意見がまかり通ってしまうことは良いこととは思えません。もしもそれが通説になってしまい、本当に開業医が抗生剤を使用できなくなったら、、、回り回って勤務医の先生の仕事にも悪影響が出てしまうと思います。

当院でも細菌性肺炎と診断する症例を診ますが、こういうケースで抗生剤が使えなければ、即座に病院に紹介するしかありません。

医療者側の視点で見れば、病院勤務医の先生たちの手をなるべく煩わせないように、迫り来る患者さんたちの波を最初に防ぐ防波堤として開業医は初療を行なっているのです。
抗生剤を使うなといわれれば、本来紹介が不要で外来で治療可能な細菌感染症を診療できなくなってしまい、やむなく病院へ紹介せざるを得ません。

でもそんな状況になったら、カテゴリで叩く人は「開業医は感染症も診れないのか」と叩くのでしょうか。

ネットの意見は先鋭化しやすいが、実際は?

ネットの意見は先鋭化しやすく、極論に陥りやすいと感じます。
特にツイッターは140字という文字数の制限があり、その中で表現しなければならない。
そうすると、「抗生剤を適正に使用できないような不勉強な開業医には抗生剤を使わせるな」という意見も簡素化され「開業医に抗生剤を使わせるな」となってしまうのでしょう。

そういう表現が続くことで「開業医=風邪でも抗生剤を出しまくる=ダメ」というイメージが固定化し、「開業医=ダメ」というレッテルを貼られてしまうことを懸念しています。

開業医全員が抗生剤を出しまくっているでしょうか。開業医全員がダメなのでしょうか。
これは確実に否定できます。優秀な開業医の先生もいます。それはおそらく「開業医に抗生剤を使わせるな」と書いた先生も否定されないでしょう。
ですが、書いた内容は「開業医は全員ダメ」という感覚を読み手に与えてしまうように思います。

言葉にせよ、文章にせよ、いつだって大切なのは書いた側の「つもり」ではなく、受け取り手側の「どう受け止めたか」です。
そのような表現をされる方にその表現を質すと「開業医全員をダメと言ったつもりはない」とおっしゃいます。そういうつもりで言ったわけではないと。ですが、受け取った側はそう受け止めてないかもしれない。
少なくとも抗生剤を適正に使用しようと努力する開業医である僕はこの表現は行き過ぎていると感じましたし、その辺の背景を全く知らない患者さんがこの文章を読んだら「開業医っていうのはダメなんだな」と感じるだろうなと思いました。

TPOをわきまえた表現を

カテゴリ全体を叩くとき、カテゴリ内にいる良識のあるダメじゃない人の尊厳を踏みにじっていることを念頭に入れて表現すべきです。カテゴリ内の良識のある人が傷ついてしまうと思え、それが自分の望みではないと感じたら、それは表現すべきではないと思います。
不特定多数が「○○=全部ダメ」という印象を持つような書き込みをするとき、それはワクチンを反対する人々が「こんな副作用が一部で生じるんだからワクチンは全部ダメ」と言っているのとあんまり変わりありません。

僕も勤務医時代にひどい処方がされた患者さんを開業医の先生から紹介されたことがあります。正直うんざりするし、そのときにいた同僚とこの処方について文句を言い合いました。「開業医はダメだなあ」と。この場合、聞いてくれる相手は同僚だけでした。
でもここはネットの世界です。同僚と悪口を言い合うのとは場が異なります。自分の発言は誰かわからない不特定多数の人の目に止まる可能性があり、それを念頭に入れて呟くことを忘れてはいけないと思います。
ネットのない時代から言われていた言葉があります。「TPOをわきまえて」。ネットという場は自由が故に表現に注意をする場だと思います。

以前に比べ患者さんの、特に若い患者さんのネットリテラシーが向上していると感じます。
インターネットで評判を確認していらっしゃる患者さんも多いし、ここ数年ネットの口コミも書いていただけれることが増えました。

正しい情報発信により「風邪には抗生剤は効かない」「出す医者は勉強不足」という情報が患者さんに浸透すれば、患者さんがそれを拾い集めて、医院を受診した後に「あそこは風邪だけで抗生剤を出しまくるからダメ」など、個々の医療機関を評価できる未来がすぐ近くまで来ていると感じます。

何かが悪いことをしていて、それを叩くなら、明確にその人を叩けば良いと思います。
きちんと頑張っている人に火の粉が降りかからないように配慮してほしいです。

でも僕は喧嘩が得意でないので、誰かを叩いたりせず、なるべく正しい情報を呟いたり、リツイートすることで長い時間をかけて受け取る側の意識が変わっていくことに期待したいと思っています。
そう自戒しつつ、今後もつぶやいたり、ブログで発信して行きたいなと思っています。