人間は二度死ぬ

2019年1月4日

先日、外来診療の合間に患者さんから「豊晴」の話が出ました。

豊晴は私の祖父です。

隣町の市原市八幡で医院を開業していました。
患者さんが言いました。
「最近夫と豊晴先生の思い出話をしたのよ。あんなにいい先生いなかったって」

祖父は家では厳格な人でしたが、患者さんにはとても優しく、「仏」のようだと言われていたそうです。
私は祖父が診療している姿を直に見たことはなかったのですが、医院を引き継いでより、患者さんから祖父の昔話を聞くようになりました。患者さんから聞く祖父の話は素晴らしい評価ばかりで、誇らしくもあり、届かない目標のようでもあります。
以前にも書きましたが、祖父の時代の医療が私の理想です。
祖父が患者さんから慕われ、20年以上経ってなお、思い出話として語り継がれていることも、目標とする理由の一つかもしれません。そのような心の通った医療を提供したいと思って日々精進しています。

とある人の葬儀で、導師様が「人は二度死ぬ」という話をされていました。
一度目は当然肉体が死んだ時、そして二度目は他の誰の記憶からも消えた時。
故人の肉体は滅んでしまったけれど、故人の形は故人と関わった人それぞれの心に残り続ける。
それがある限り、人は完全には滅びない。

豊晴の肉体は遠い昔に亡くなりました。
ですが、患者さんの記憶に確かに残り、今でも近くで存在しているような気がします。
思い出を持ってきて頂いた患者さんに感謝しつつ、祖父の安らかなる眠りを祈りたいと思います。