医療は魔法ではない

2019年1月8日

昨日は千葉市夜間休日診療所の当番でした。
日中の自院がすごく混雑したのでヘロヘロになりながら行きました。
夜休診も混雑を予想して覚悟していたのですが、実際はガラガラで拍子抜けしました。

ところで、その診療の合間のこと、救急車の受け入れ要請がありました。

曰く、本日午前中にインフルエンザと診断され、タミフルという抗インフルエンザ薬を処方された。内服したがまだ熱が高いので診て欲しい。という内容。

この内容に「こんなことで救急車呼ぶなんて」と看護師さんは文句たらたら。
確かにもう診断もついて薬も出ているので、来院してもやれることはありません。
看護師さんが「断ってもいいですよね」とプンプンしていたのですが、私としては、何も追加できる治療がないかもしれないけど、それでも診て欲しいなら診ますと伝えました。

医療は魔法ではありません。
タミフルはとても良いくすりですが、飲んだ瞬間に身体中のインフルエンザウイルスを撲滅できるわけではないのです。
当然解熱には数日を要するので、今日タミフルを内服したばかりで熱が下がらないのは当たり前なのです。

それでもその患者さんは救急車を呼んだ。つまりその当たり前を知らないのです。
看護師さんは怒っていましたが、私は怒る気になれませんでした。
知らないことは悪いことではないからです。
もしも責められるべき人がいるとすれば、それはインフルエンザと診断してタミフルを処方した医師です。
その医師が解熱まで数日はかかるという治療の見立てを伝えていれば、患者さんは安心してそれまで待てたはずなのです。

結局その患者さんは来院され、インフルエンザという病気について、タミフルという薬について、病気の見立てについて説明したら安心してお帰りになりました。

人間はどうしても自分の側から見える景色が当たり前だと考えがちです。
立つ位置を変えれば景色も違って見える、こんな当然なこともともすれば忘れてしまいます。
自分達の持つ知識では当たり前のことも、医療を専門にしていない患者さんにとっては当たり前じゃないなんてことはよくあることなんだと、肝に命じて日々診療していこうと思いました。